victoria:教皇領AAR 西方(さいほう)の人

December 29, 2005

1. この本を見よ

(ある)(ゆふべ)、東京の(ある)南蛮寺境内を歩ひてゐると、顔馴染みの伊留満(いるまん*1)に会つた。
「これからおらつしよ*2ですかな、結構結構(けつかうけつかう)
「丁度良かつた、そうではなゐのです。実はこんなものを手に()れまして」
阿蘭陀(おらんだ)からきたと()()の赤ら顔の伊留満(いるまん)に出会つてから、彼是(かれこれ)十年にならうか。わたしは()の博識な男に何故か親近感を抱き、事ある毎に訪ねてゐるのである。
「例の古物商からなのですが、1880年頃の品と()ふことでした」
少々(かび)臭い、厚さ四(せんち)はあらうかと()()の黒い本を、わたしはこの赤ら顔に差し出した。


2. 聖下(ぱぱ*3)

「ほう、()れはまた面白い物を」
随分と日焼けした()の表紙を(めく)ると、そこには仏蘭西(ふらんす)語で - 偉大なる聖下(ぱぱ)に捧ぐ - と書かれてゐた。
「だうやら、基督(くりすと)教国の王、羅馬(ろーま)教皇につひて書かれて()るやうですよ」
赤ら顔が語つてくれたところによると、19世紀中頃、羅馬(ろーま)教皇は今で()伊太利(いたりい)の辺りに国を持つてゐたそうだ。
初めは阿弗利加(あふりか)大陸を仏蘭西(ふらんす)西班牙(すぺいん)(彼らは同盟し対抗してゐた)と競うやうに植民地化してゐたが、工業化をするなどして次第に力をつけ、19世紀末に伊太利(いたりい)を統一したのを機に瑞西(すいす)も属国化し、欧州で覇を唱えるようになつたと()ふ。あの巨大な遺跡で名を知られる埃及(えじぷと)までも()の軍隊の前には四散し、眠れる獅子と恐れられた支那(しな)に至つては、(まさ)に世紀末の1899年に一気に併合されてしまつたらしひ。
「それだけの王国を築いた御方(おんかた)なら、DS(でうす*4)御教(みおしえ)を広め、波羅葦僧垤利阿利(ぱらいそてれある*5)を御創りになられたのでせうか」


3. 火焙り

「むむ、そうでは無ひと書ひてある」
「どういうことでせう」
DS(でうす)御教(みおしえ)に従わない者は、皆火焙りになつた」
「なんと」
「彼が築いたのは因辺留濃垤利阿利(いんへるのてれある*6)であつたらしひ」
「こんな偉大な王国を築いた御方(おんかた)が何故」
更に読み聞かせてくれた(ところ)()れば、20世紀に入り彼の意にそぐわない者は残らず異教徒(いけふと)異端者(いたんしや)とされ、()の王国の精強な異端審問官達により次ゞ(つぎつぎ)と火焙りにされてゐつたといふ。仏蘭西(ふらんす)西班牙(すぺいん)独逸(どいつ)葡萄牙(ぽるとがる)はもちろん、あの太陽の沈まない国と称えられた英吉利(いぎりす)でさえ、()の業火に焼かれてゐつたと()ふのだ。
「このようなことがあらうはずが無ひ、我が阿蘭陀(おらんだ)まで焼かれたなどと」


4. 再出品

()れは、あぼくりは*7ですなあ、それに20世紀のことまで書ひてあるのに1880年頃の品とはおかしひ、偽造品(にせもの)ではなゐのですか」
「しかし、」
「それによく見て御覧なさひ、()の表紙は別の本の物をつけたやうでせう」
()われるままに指し示された箇所を見ると、はたして()こにはなにやら加工した痕がぼんやりと見えるのであつた。
「あの古物商はやめなさひ、阨付屋(やふおく)は。また(つか)まされたのでせう」
「わたしの鑑定眼も未だゞ(まだまだ)()ふことですね」
体を左右に大きく揺らしながら去つていくその後姿を見送りながら、()れをどう転売(てんばい*8)したものだらうかと、透き通るように晴れた冬空を只ゞ(ただただ)見上げるのであつた。


(芥川流の助)
  • 注1irumao(ポルトガル語);宣教師
  • 注2oratio(ポルトガル語);祈祷
  • 注3Papa(ラテン語);教皇様の敬称
  • 注4deus(ポルトガル語);神
  • 注5paraiso terral(ポルトガル語);この世の楽園
  • 注6inferno terral(ポルトガル語);この世の地獄
  • 注7apocrypha(ラテン語);信じがたい文書、経典
  • 注8tenbai(日本語);要らない物を高く売りつけること
Posted by chihiro at 10:12 pm | from category: game

Comments

Camicie Nere:

ねえねえ、教皇様、このふりがな付けタグって、標準でつかえるの?
(on December 30, 2005 at 12:48 am)

伊留満:

(on December 30, 2005 at 03:57 am)

 :

教皇様キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
(on December 30, 2005 at 06:46 pm)
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